先日、ある読者の方から、
日本人のリスニングが弱いのは、パスバンドの違いではないか?
という内容のメッセージをいただきました。
これに関しては私も長年色々思うところがあったので、今回の記事を書くことにしました。
日本人が外国語に弱いのはなぜか。
言語学的に、日本語のパスバンド(周波数帯)が狭いというのは、
外国語を習得するうえでハンデとなることは否めないだろうとは思います。
パスバンドとは音の持つ周波数のことです。
たとえば、コウモリは超音波を発してコミュニケーションを取ると言われています。
また、犬笛というのがありますね。
オセアニアの羊飼いは、犬笛を使うことで牧羊犬の動きをコントロールしています。
これらは、人間には聞き取ることのできない周波数の音です。
言語にも周波数というのがあり、日本語は大体120~1500ヘルツの周波数帯と言われています。
それに対して英語はというと、アメリカ英語で1000~4000、イギリス英語で2000~12000と言われます。
つまり、英語は日本語と比べるとかなり周波数が高いのです。
日本語の周波数が低いために、日本人は高周波数の言語の聞き取りが難しいという理論ですね。
中国語は英語と同じようなパスバンドだと言われています。
なので、日本人よりも中国人のほうが英語を習得しやすいということになります。
日本人には最初からハンデがあるのですね。
ただ、そのハンデは決して乗り越えられないものではないと私は思います。
というのも、長年日本人成人学習者を教えてきて思うのが、
言語習得年齢(個人差はありますが、大体14歳くらいと言われます)をとうに超えた大人でも、
発音はかなり矯正することができますし、会話力もアップするからです。
ではなぜ、日本人は英語ができないのか。
色々言われていますが、私はいちばんの原因は、やはり学校教育にあると思っています。
個人差はありますが、20代以上の成人学習者が週に一度のペースで英会話に通うと、
だいたい2~3年で中級レベルまで達することができます。
ネイティブと喧々諤々で討論したり、ドラマを字幕なしで見られるレベルには程遠いですが、
1対1の会話やニュースを理解することはできる、というレベルです。
このレベルになると、外国人から話しかけられたりしても普通に返せます。
東南アジアの観光産業に就いている人たちは、みなこれくらいのレベルだと言えます。
では、言語習得年齢まっただ中であるはずの中学時代に、
週に3時間も4時間も英語の授業があるにも関わらず、卒業の時点でまともに英語が話せないのはなぜか。
それはやはり、メソッドが間違っているからとしか言いようがありません。
日本人の英語は、中学・高校のテキストを何とかしない限りどうにもならないでしょう。
はっきり言って和書(日本語で書かれた教材)を使っているうちはダメです。
洋書を使うべきなのです。
洋書のコミュニケーション用テキストは、4技能(読む、聴く、書く、話す)を
バランス良くカバーしています。
初級者はまずは身近な話題から聴き、話せるように訓練する。
徐々にレベルが上がってくると、リーディングが入ってくるようになる。
そしてさらにレベルが上がるとライティングが増えてくる。
というように、人が自然に外国語を習得できるようにシラバスが組まれています。
検定教科書はそうではありません。
何十年も前のカリキュラムを、いまだに引きずっている日本の学校教育は、
アジア諸国から激しく後れを取っています。
中国では、普通にアメリカで作られたオーラルコミュニケーションの教材を使っています。
お隣の韓国も、洋書の文法書を英語の授業で使っているのです。
日本だけが、いつまでも5文型なんてやっているのです。
昭和初期のまま時代が止まっているのです。
鎖国状態の北朝鮮とTOEICスコアの低さを競っているのは、日本の英語教育が鎖国状態だからです。
その結果、ハーバード大への進学者は中国人は300人いるのに、日本人はたったの1人しかいない。
そんな現状を引き起こしているのです。
メソッドや教科書にも問題はありますが、それ以前に、
英語で英語を教えられる教師が、学校教育の現場にほとんどいないというのも大きい。
ある意味、これに尽きると私は考えます。
先ほどのパスバンドの話に戻りますが、英語のパスバンドを出せる教師が指導しないと、
生徒のリスニングが上がるはずはありません。
日本語のパスバンドでしか発音できない教師に外国語を教わるのは、
泳げないコーチから泳ぎ方を教わるのと同じくらい、無意味なことです。
そして、今の日本の英語教育の現場は、まさに泳げない人間が水泳のコーチをしている状態です。
私は、かつて洋書出版社でPRをしていました。
大学の教授にテキストを紹介すると、「これ、日本語が書かれてないから使えない」と
信じられないことを言われたことがあります。
多くのセミナーやワークショップに行っても、参加する日本人教師は一部の決まった人だけです。
それも、活発に意見交換をしてアイデアを紹介しあうというより、
ご本人の英語力をブラッシュアップするために参加している、という人のほうが多いのが現状です。
また、これは中学や高校の現場に見られることですが、
英語ができない年配の英語教員と、MA(TESOL)保持者の若手教員との確執があまりに激しく、
せっかくアメリカの大学院で最先端の英語教授法をやってきた若い教員が、活躍できないのです。
日本の学校(学校だけではありませんが)は、今もって年功序列が幅を利かせていますから。
これは、実際に私が英語教員として教育現場を体験したり、
出版社時代に全国何百という中高、大学を回って現場の教員たちと話をしてきたことで、
目の当たりにしてきた現実です。
教育現場が抱えるこういった諸問題が、そのまま日本の英語教育を立ち行かなくさせている原因です。
検定教科書を廃止し、週に4回、コミュニカティブな授業を4技能をカバーした洋書で行う。
これを中学3年間徹底すれば、卒業の頃は普通に英語が話せるようになっているはずです。
そして、高校以降は英語は選択制にすればいいのです。
さらに高度な英語を学び、将来医師や科学者、工学系に進みたい人は続けて英語を選択する。
そうでない人には、英語以外の外国語の授業枠もいくつか設けて、
そちらを取りたい人には取れるようにするべきです。
だいたい、本当に英語が必要なのは文系ではなく理系なのです。
文系に進んだ場合、国際政治などをやらない限り、はっきり言って英語はそれほど使いません。
英語と一生縁が切れないのは間違いなく理系です。
科学の分野は論文も何もかも全て英語ですし、ITやエンジニアリングなども英語が必要です。
最先端の技術や医学、IT産業は全てアメリカ始動です。
専門書や情報が日本に入って来て翻訳されるのを待っていては、仕事になりません。
実は、こういった話は出版社時代に、文科省の人と何度もしたのです。
みな個人的にお話しすると、「そうですよね、私もそう思います」と答えてくださるのですが、
実際に変革することはしないんですね。
こういった腰の重さも、日本が変われない理由の一端ではないかと思います。
とにかく、日本の英語教育の現場は激しく遅れています。
これは、中国、台湾、韓国、香港、ベトナム、インド、マレーシア、シンガポール、タイ、
といったアジア諸国の教育関係者と何度もカンフェレンスで話をしたことで痛感したことです。
特に、お隣の韓国にはこの10年ほどで一気に抜かれてしまいました。
韓国人や中国人はアグレッシブだから、日本人と比べて根性がある、
だから外国語もマスターしやすい、という人もいますが、
私は決してそんなことはないと思います。
長年アジア人と一緒に仕事をしてきましたが、コミュニケーションにおけるシャイネスという点は、
ある種アジア共通のものだと感じたからです(インドやアラブ圏は除く)。
その中で日本が群を抜いて遅れを取っている(って、日本語が変ですが)原因は、
やはり学校教育と教師の質にあるという結論に至らざるをえません。
ここをドラスティックに変えない限り、個人の努力では限界があるのではいかと思うのです。
現状は、英語が好きで英語をマスターしたいと強く願っている人だけがそれなりに上達する、
という日本全体の英語力ボトムアップには程遠いありさまです。
韓国や中国が大きく変わってきたのは、政府が抜本的な改革をしているからです。
彼らの国民性だけの問題ではありません(それもゼロではないと思いますが)。
いつか、日本の学校教育が変わる日は来るのでしょうか。
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